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『木のお医者さん』その1 [GBA2005ノベル]

  【序】
 ここは西暦二四五五年の日本です。
 ジーザス・クライストが人間として生まれ落ちてから、二四五五年も経っていましたので、その教えは大きく歪められてしまい、権力者たちの都合の良いように変形、引用されていました。
 唯物論を声高に主張する学者が肩で風をきり、我が物顔で道を歩いているのも、ここ──日本だけでした。唯心論者が肩身の狭い思いをするのも、二一〇〇年代まで停滞していた科学が、二三〇〇年代に入ってから、今までの停滞を笑い飛ばすように、著しく進歩してきたからなのです。
 どれだけ科学が進歩してきたのか、街を一目見ただけで分かるでしょう。
 
 歩道と車道との境目に、三メートルくらいの間隔で電柱が立っているのが見えます。しかし、どこにも電線が見あたりません。それもそのはず、二、三百年くらい前に、日本中の電線を地下に埋める作業が終了しています。では、この電柱は何の役割があるのでしょう。
 あ、雨が降ってきました。建物の屋根も、外壁も、窓ガラスも、そしてアスファルトの地面も、雨が湿らせていきます。電柱のてっぺんから、半透明の板が飛び出てきて左右に拡がり、歩道と同じ面積の屋根が、ちょうど歩道の真上にできあがりました。
 電柱ではなく、雨が降るとセンサーが作動して、アーケードを作る装置だったのです。このアーケードのおかげで、道行く人は衣服が雨に濡れることや、頭髪が雨で乱れることなどを気にせずに歩くことができました。
 これくらいで驚いていては、万能科学に失礼です。まだ歩道には、便利な装置があります。
 日本の歩道は、とても汚れていました。ええ、それはひどいもので、鉄道の駅周辺や盛り場などの歩道は、吐き捨てられた痰やチューイングガム、煙草の吸い殻やジュースの空き缶、ピンクチラシなどで散らかっていました。しかし、今ではご覧のように、塵一つと見あたりません。
 あ、通行人が今、煙草の吸い殻をぽいと捨てていきました。吸い殻が歩道のアスファルトに触れた瞬間、直径十センチメートルの穴が開いて、ごおおおという轟音とともに煙草の吸い殻を吸い込んで、ぱたんと閉じました。
 吸い込まれた煙草の吸い殻は、何処へ行くのか、ですって? 実は、地下にあるゴミ処理場へ運ばれていくのです。ゴミ処理場の臭いで、鼻が曲がってしまいそうだから地下へ移してくれ、などとゴミ処理場周辺の心ない住民の訴えにより、ゴミ処理場は訴えがあった翌年に、地下へ移されました。
 今までに挙げてきたことは、日本政府が掲げた『未来都市化計画』の一環なのです。国際連合は全国に、空気中の二酸化炭素量増加に伴う地球の温暖化を防ぐために、石炭や石油など化石燃料の使用量を制限すること、化石燃料に代わるクリーンエネルギーを開発することなどを、何千年も前から言ってきました。しかし、クリーンエネルギーの開発に何兆何億と費用が必要になるため、日本政府はこれを放っておきました。

 あれよこれよと月日が経ち、日本は地球上で一番、空気が汚れている国になってしまいました。そこで政府の要人たちは、空いている土地に木を植えて汚れた空気を吸わせ、人間が呼吸するのに心地よく清い空気を吐き出させようと考えたのです。
 その効果は二百年後に出てきました。しかし、空気がきれいになるにしたがい、植えられた木々は次第に、葉の色を濁らせていきました。
 さて。この先、どのようになっていくのか、日本の首都にして大都市である東京に目を向けてみましょう・・・。

<続く>


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